過酷な環境に対応するハイパースペクトルイメージャーのご紹介

ハイパースペクトルイメージャーは、カモフラージュ(偽装)された物体の識別に役立ちます

低コストでコンパクト、そしてシンプルな構造を持つSRIの新しいハイパースペクトルイメージャーは、過酷な環境下での状況認識能力を向上させる


人間の「目」は優れた器官ですが、その性能には限界があります。色を感じる目の受容体(錐体細胞)は、赤・緑・青の3つの狭い波長帯域の光に最も敏感です。そして、一般的なカメラは人の目を模倣していて、同様にこれら3つの波長範囲内の限られた情報しか捉えることができません。

ハイパースペクトルイメージング(Hyperspectral imaging)は、この生理学的な限界を克服する方法を提供します。一般的なカメラとは異なり、ハイパースペクトルイメージャーは、一般的に可視スペクトル全体を含む、またはそれを超える多数の波長にわたって情報を取得します。この追加情報をユーザーが認識できる形で変換することで、カモフラージュ(偽装)された軍用車両の識別、農作物の健康状態の監視、医療診断、美術品の偽造判定などにも利用されています。

しかし、従来のハイパースペクトルイメージャーは高価で大型であるため、普及や実用化には制限がありました。

この技術の恩恵をより多く享受できるように、SRIの研究者たちは民間および防衛分野において多用途に活用できる、コスト効率の高い新型のハイパースペクトルイメージャーを開発しました。

ハイパースペクトルイメージングの仕組み

ハイパースペクトルイメージャーは、ピクセルの扱い方において他のイメージング技術と一線を画しています。

通常の画像ピクセルは定義された空間内の特定色を表しますが、ハイパースペクトルのピクセルはより多くの情報を含んでいます。「ハイパースペクトルイメージングの重要な概念は、画像内の各ピクセルが通常のカメラのように空間情報だけでなく、様々な波長にわたるスペクトル情報も含んでいるということです」と、SRIの自律システムおよびライフサイエンス部門マネージャーのJoerg Martiniは説明します。

結果として得られる処理された画像データ(イメージキューブ)は、観測対象物のより深い、詳細な画像を提供します。ユーザーだけではなく、画像認識ソフトウェアもこれらの画像を使って、カモフラージュネットと軍用車両の塗装の赤外線反射率の違いなど、異常を簡単に見つけ出すことができます。

より実用的なハイパースペクトルイメージャーの設計

SRIのハイパースペクトルイメージャーは、他の製品と比べて小型・低コストでありながら、高解像度の画像を提供し、可視スペクトル領域から赤外線領域(最大約1050ナノメートル)までの波長で情報を取得します。ドローンなど、サイズ・重量・電力供給に制限のある用途でも簡単に導入できます。

「このシステムは、シンプルさ、コンパクトさ、低コスト、高性能を特徴とそしており、従来の大型で高価なハイパースペクトルシステムが実用的ではないような幅広いアプリケーションに有望な候補となります」とMartiniは述べています。

「我々のイメージャーは、機械部品や可動部を使わずに効率的なデータ収集を実現しており、振動に対して堅牢なシステムとなっています。」— Joerg Martini

技術的には、この新しいイメージャーは「液晶可変リターダー」と呼ばれる技術に依存しており、これはハイパースペクトルイメージャーではあまり使われていない技術です。液晶は、結晶のようなある程度の秩序性を保ちながらも液体のように流動し、外部からの制御刺激に反応して光の偏光(電場が振動する面)を動的に変えることができます。これにより、特定の偏光の光を選択的に透過・遮断することが可能です。これは、偏光サングラスを通してスマートフォンの画面を見ると黒くなるのと同じです。

SRIの科学者たちは、液晶ディスプレイを用いて電気信号で数字表示部分の透明と黒を切り替える昔ながらのポケット電卓の液晶表示にヒントを得て、同じ基本的な手法(ただし、やや高度な手法)を用いて、制御可能な特定の波長の光を遮断・透過させました。その結果得られる光のパターンは、ソフトウェアで数学的に解析してスペクトル情報を収集できます。このプロセスは複雑ですが、わずか2秒で完了し、潜在的に重要なスペクトル情報と空間情報を含む一連の画像を迅速に生成します。

「この画像シーケンスにより、他の方法では見ることができなかったものを見ることができます」とMartiniは述べています。

成熟していて安価な液晶技術は、コンパクトで軽量、コスト効率に優れたハイパースペクトルイメージャーの構築に最適です。

さらに、SRIのイメージャーは(多くの高スペクトル分解能イメージング装置とは異なり)可動部品がないため、様々な動作環境の過酷な条件にも耐えることができます。「SRIのイメージャーは、機械部品や可動部品を必要とせずに効率的なデータ収集を行うため、振動に対して堅牢なシステムとなっています」とMartiniは述べています。

なぜ手頃で実用的なハイパースペクトルイメージングが重要なのか

SRIのイメージャーは、多くの潜在的な用途に適しています。特に、防衛分野では大きな関心を集めています。

例えば、軍や武装集団はそれぞれ異なる繊維や塗料を使用しており、これを識別することで、偵察プラットフォームに搭載されたハイパースペクトルイメージャーは、配備された軍用車両、航空機、さらには衛星の国籍を特定することができます。「軍は宇宙や空から、ハイパースペクトルカメラを使って味方と敵を識別できると認識しています」とSRIのビジネス開発担当で元米陸軍のDan Williamsは語ります。「外国の航空機やドローンに対し、我々のイメージャーを使えば、飛行を継続させるべきか、撃墜すべきかをある程度判断することができます。」

また、目にみえる模様などを隠すカモフラージュの無効化にも有効です。「カモフラージュは視覚パターンを隠すように設計されていますが、ハイパースペクトルカメラは自然に存在しない異常を高精度で識別します」とWilliams は述べています。SRIの画像技術はサイズとコストが管理しやすいため、イメージャーを軍隊に広く配備でき、部隊は環境認識能力を大幅に向上させることができます。

さらに、これらのセンシング技術は産業検査、偽造監視、農作物の収穫管理など、数多くの民間・商業用途にも広がっています。「植物の生理的変化は、植物・果実・種の色に現れますが、人間の目には分からない数多くの微妙な特徴も、スペクトル的に検出できます」とMartiniは説明します。

SRIハイパースペクトルイメージャーのもう一つの有望な用途は蛍光顕微鏡です。これは、実験室サンプル中の蛍光マーカーに光を当て、非常に詳細な可視化を通して特定の関心対象要素を明らかにするもので、生物学や医療診断でよく使用されます。もう一つのユースケースは、自動運転車です。ハイパースペクトルイメージング装置を搭載することで、自動運転車は周囲の物体をより正確に検出・分類できるようになります。このように、多くの分野での活用が期待されています。

「私たちは、高い空間解像度、小型化、低コスト、シンプルさ、そして堅牢性といった特徴が重視される特定の市場に向けて、このイメージャーを開発してきました」とMartiniは述べています。

SRIのハイパースペクトルイメージャーや、政府機関や民間企業向けに開発中のその他の技術について、詳しくはこちらからお問い合わせください。


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